「ジェーン・エア」
日生劇場
12:00
- ヒース茂る荒野に、とどまることなく風が吹いている。上演時間は休憩込み約3時間、けれど2時間ほどだったかのような感覚。何より場面転換の滑らかさ、エレガントさ。しかし決してせわしくない。本のページを丁寧にめくっていく様にどこか似ていた。
- 決して派手でない、人の語る声のようなメロディ。無理せず一音一音に丁寧にことばを乗せている訳詞は、日本語の音としてすんなり耳に入ってくる。ミュージカルだけれど(という程ミュージカルを観慣れていないのだけれど)不思議と、ストレートプレイを観たのに近い感覚が。
- 凛と立つジェーン。松たか子の歌声を舞台で初めて聴き、揺れない、しなやかな音に驚く。橋本さとしは初演*1より一見軽やかにしかし内面の暗さはいや増して、同役をまるで新しい角度から見るような思い。僅かな台詞で、年月にこもったないまぜの憎しみと畏れを強く強く放つ阿知波悟美。
- 松井るみによる、物語全体をあの荒野の色に包み込む美術と、中川隆一の手がける薄闇や夜明けの色を作る照明がまた、初演と変わらずひどく美しいのでした。公演を形作るピースのひとつひとつが乱れなく無駄なくひたすら、ジェーン・エアの世界をつくるという一点に、静かに熱く集中しているような。