「高き彼物」
吉祥寺シアター
19:00
- ala Collectionシリーズ vol.5『高き彼物』/2000年のマキノ戯曲をマキノ本人による演出で。実にスマートで合理的な構成に、実に非合理な人間の心が、かちりかちりと嵌められる。次から次へと惜しげもなく訪れる、ひどく切実なのにひどく笑える瞬間。
- ウェルメイド、時にシチュエーション・コメディ的ですらある、けれどもそこには人間をとことん突き放し一般化する乾いた色はない。昭和53年、静岡の片田舎、夏。夕立、遠雷、蝉の声、氷と麦茶、そして遠州のことば。他のどこであってもいけない、雨と土の匂いのする心性が流れている。
- ある真相は、初演から十数年が過ぎた今なお衝撃でありうる。けれども抗いがたく心囚われたかれの経験は、すべて人が経験しうることと思えてならない。道徳ではない指向の問題ですらない、人という生き物だから出くわしてしまったあれもまた、哀しくも高き瞬間だったのだと、私は信ずる。
- 少ないキャストひとりひとりから伝わる、今そこにある時間と言葉を丁寧に生きる誠実さ。藤村直樹の、交わされ向けられる言葉を(役柄としても、本人としても)真摯に「聞いている」感触に心打たれる。心のリアルさと同時に技巧的な「間」もまったく外さない石丸謙二郎や金沢映子に脱帽。