水平線ログ

主にTwitterでの観劇感想ログ置き場です。ほぼ箇条書き。 ただいま抜けていた2016-2020のログを少しずつ転記中。

PArCO PRODUCE「BENT」

2016.7.20.

14:00

世田谷パブリックシアター

 

ナチスドイツの同性愛者迫害に基づく物語。何より、戯曲の圧倒的な力。後半の収容所のシーンはほぼ2人芝居、互いに顔を見ることも触れることも許されない。ほかの一切の選択肢を奪われた中、最も肉体から遠ざかったところで、言葉、ただ言葉だけで交わされる、最も親密な肉体のやりとり。はじめは少し笑いさえ起きるその状況は、不器用で、誠実で、痛ましく、やがて気高い光となって空気を震わせる。会話に用いられる台詞はごく短く、まどろっこしいほどに同じ言葉を繰り返す、それが気づけば詩のように響きだす。徐賀世子の訳は奇をてらわない日常語を用いて効果的だった。

・その上で、演出。断片的なシーンと短い台詞で構成されるので、メリハリ、リズム感が肝要だと思うのだけれど、どうもそこの据わりが悪く。プリンターが文字を常に一定のペースで印刷するさまをじっと見ている感覚。物語の力で持っていけはすれども、+αの吸引力が弱い気がしてしまった。

・メイン二人以外は出番が贅沢に少ない中、印象的だった藤木孝と石井英明。結婚し、ゲイとしては「ときどき楽しむ」ことで生きてきた「フレディおじさん」。誰あろう藤木孝の存在でねじふせるごときインパクトを備えた声と佇まい。残酷な運命をつきつける「大尉」。静かな静かなサディズム

佐々木蔵之介、男性に対する吸引力抜群のセクシーかつ傍若無人なマックス。というには生真面目さと女性にモテそう感が勝ってしまった感ありつつ、その生真面目な芝居が、「言葉の触れ合い」シーン以降、ガラス細工のような繊細さをつくるさまが美しかった。遠い席でも目の動きが分かる。

 ・北村有起哉ホルスト。多分初めて舞台で拝見できた。渋い声の良さ。精密であることを目立たせないサラリとした精密芝居。打ち解けづらく頑固なホルストの、虚をつく率直さ、音なく募るマックスへの想い。そうした不意にあらわれる真意と揺れる内側を少ない言葉に込める力強さ。